みなさんは「オノマトペ」という言葉を聞いたことがありますか?
なんだか外国のお料理みたいな名前だね……。
オノマトペは感覚として捉えたことを表現するのに役立つ素晴らしい文章の技術です。
この記事では「オノマトペとは何か?」を解説したうえで、その特徴について取り上げていきます。ライターさんの参考になれば幸いです!
目 次
オノマトペとは?
オノマトペとは、外界の物音、人や動物の声、物事の様子や心理を感覚的に表現する言葉のことです。名称はフランス語の「onomatopée(オノマトペー)」に由来しています。
例えば、「雨がザーザー降っている」という文章を読んだとき、雨の降り方は激しい、とイメージすることができます。

「ザーザー」という言葉には、雨の状態を想像させる働きがあります。
このほかにも、お母さんがイライラしている、すずめがチュンチュンと鳴いているなど、オノマトペにはいろんな種類があります。
また、オノマトペは言語なので各国の文化によって異なります。
具体例を挙げると、犬の鳴き声は、日本では「ワンワン」ですが、アメリカでは「bowwow(バウワウ)」と表現します。
言葉は人間が生み出す以上、そこには世界観が反映されます。「ちょうちょ」と「蛾」を分ける国もあれば、一つの言葉として表現するところもある。そこには、名付け親とそれを用いる人たちの間で共有される価値観があるのです。
オノマトペの4類型
田島香織さんの『オノマトペ(擬音語擬態語)について』によると、オノマトペは4種類に分かれているといいます。
- 擬声語:動物の鳴き声や人の声を表す言葉
犬がワンワン吠える、猫がニャーニャー鳴くなどの「ワンワン」や「ニャーニャー」が擬声語です。
- 擬音語:自然界の音や物音を表す言葉
扉をドンドンとたたく、風がビュービュー吹いているなどの「ドンドン」や「ビュービュー」が擬音語です。
- 擬態語:動作や事物の状態を表す言葉
窓がピカピカになっている、ボロボロの服を着ているなどの「ピカピカ」や「ボロボロ」が擬態語です。
- 擬情語:人の感情や心理状態を表す言葉
お父さんがイライラしている、先生がソワソワしているなどの「イライラ」や「ソワソワ」が擬情語です。
オノマトペは人々の五感や印象によって捉えられるイメージなので、各類型を活かした文章を作成することで読み手と世界観を共有することができます。
オノマトペの歴史
日本のオノマトペは古い歴史をもっています。さかのぼると、712年に成立した日本最古の歴史書といわれている『古事記』にもオノマトペがあります。
これに関しては、西見真衣子さんの『オノマトペの果たす役割と効果について』という論文に引用されている『古事記』の該当箇所を孫引きします。
※この記事は学術的なものではないので孫引きしています。
<本文>
於是、天神諸命以、詔伊耶那岐命・伊耶那美命二柱神、修理固成是多陀用弊流之国、賜天沼矛而、言依賜也。故、二柱神、立<訓立云/多々志。>天浮橋而、指下其沼矛以画者、塩許々袁々呂々邇<此七字/以音。>画鳴<訓鳴伝/那志也。>而、引上時、自其矛末垂落塩之、累積成島。是、淤能碁呂島。<自淤以下/四字以音。>
<解読文>
是に、天つ神諸の命以て、伊耶那岐命・伊耶那美命の二柱の神に詔はく、「是のただよへる国を 修理ひ固成せ」とのりたまひ、天の沼矛を賜ひて、言依し賜ひき。故、二柱の神、天の浮橋に立 たして、其の沼矛を指下して画きしかば、塩こをろこをろに画き鳴して、引き上げし時に、其の矛の末より垂落ちし塩は、累り積りて島と成りき。是、淤能碁呂島ぞ。
<説明>
天の神々の言いつけで、イザナキ・イザナミの二神が、クニをアメノヌホコでかき回した。その時に、塩を「こをろこをろ」とかき鳴らしたあと、アメノヌホコを引き上げると、そこから塩がしたたり落ちてつみかさなり、島となった。これが、オノゴロジマである。
引用:西見真衣子さん 『オノマトペの果たす役割と効果について』 から抜粋
このように、日本語には古くからオノマトペがあり、現代においても絶えず新しい言葉が生まれています。
オノマトペのスタイル
オノマトペの活用方法には大きく4種類あります。
- 動詞
- 形容詞
- 副詞
- 名詞
動詞として使う
オノマトペは動詞になります。
「オノマトペ+する」といった形式で使われます。
- 私の父親はいつもニコニコしている。
- 物事を人にせいにする人ほどイライラする。
- 人の真心に触れると、心がポカポカする。
形容詞として使う
オノマトペは形容詞にもなります。
「オノマトペ+の/だ」といった形式で使われます。
- あの人はボロボロの服装で面接に行った。
- スベスベの肌になるために化粧品を買った。
- 濡れた靴下を履いたまま家に入ったので、床がビショビショだ。
副詞としての使う
副詞として使う場合は、「オノマトペ+に/と」といった形式で用いられます。
なお、「と」が無くても意味がとおります。
- 星がキラキラと/キラキラ輝いている。
- パズルのピースをバラバラにした。
- あの人は何も見ないでスラスラと/スラスラ演説した。
名詞としての使う
名詞として活用する場合は、「オノマトペ単独」で使われます。
- イライラは人を追い詰める。
- ワクワクが大切だ。
また、「オノマトペ+言葉」から成り立つ名詞もあります。
- これまでの作品とはドキドキ感が違う。
- 前の車はノロノロ運転で危ない。
子どもたちとのコミュニケーションで使う

オノマトペは子どもたちとのコミュニケーションとしても頻繁に用いられています。
例えば、「車に気を付けるのよ」といった注意喚起を「ブーブーはあぶないからね」などの言い方で伝えられることがあります。
子どもたちと一緒に使うオノマトペは、耳で分かりやすい擬音語が多いです。
犬であれば「ワンワン」、パトカーであれば「ピーポー」などの言葉で表わすことで、大人と子どものミス・コミュニケーションを防止できる子育ての知恵といえます。
コピーライトで見えない価値を言語化する
感覚を言葉に落とし込むオノマトペは、商品名、キャッチフレーズ、あるいはコーポレーション・アイデンティティなどのコピーライトにも応用されています。
実際に、ほっかほか亭、ゴキブリほいほい、ガリガリ君、ニコニコ動画、クル♪クル♪クレラップの音楽など枚挙に暇がありません。
そのほか、記事の見出しても使われています。
例えば、サクサクわかる!○○で成功する人が実践する7つのこと、○○がガンガン決まる?人には教えたくない○○術などです。
「どのような感覚をユーザーに伝えるのか?」といった共感性に根差したマーケティングには、オノマトペが有効です。
読者の想像力を引き出す
オノマトペを使った文章には読者の想像力を引き出す作用があります。
- 私の親友は悲しい気持ちのときでもニコニコしていた。
- 私の親友は悲しい気持ちのときでも笑っていた。
「ニコニコ」と「笑っている」は類似性の高い言葉ですが、笑っているというダイレクトな表現には、書き手の感覚や思考を読者にストレートに伝える作用があります。
その一方、オノマトペとして表現されていると、書き手からはニコニコという視覚的な映像として読者に伝えられるのでがイメージできる幅が広くなります。
描写を意味のカタマリとして投げつけるのではなく、書き手の意図というゴールがありながらも、そっとパスを出すような文章を書くことで想像力を引き出す余白が生まれます。
オノマトペで共感的な文章を書こう!
オノマトペを使った文章は人々の感覚に訴える作用があります。
文構造が正確なものだけではなく、読者がじっくりと咀嚼(そしゃく)できる隙間のある文章は読みやすいです。
検索エンジンの発達したことで、知らないことも一瞬で調べられる時代になりました。
しかし、知識を消費するだけでは物足りなくなっていきます。
だれもが同じことを調べられる以上、「知識に何を色づけていくのか?」といった視点がコンテンツの価値を高めます。
読者が何かを生み出せるような感覚的な文章は、オリジナリティが溢れ出し、ユーザーの気づきに貢献できるのではないしょうか?
参考資料一覧
田島香織さん『オノマトペ(擬音語擬態語)について』https://core.ac.uk/download/pdf/147852557.pdf(最終確認日:2020/2/4)
西見真衣子さん『オノマトペの果たす役割と効果について』(最終確認日:2020/2/4)
※西見真衣子さんの論文はPDFデータのダウンロードが必要なので検索してください。