新型コロナウィルスの感染拡大で世界中が混乱しています。健康被害だけではなく、経済への打撃も深刻化しています。
さらに、根拠のないデマや噂レベルの情報が拡散されるインフォデミックという問題があります。緊急時において間違った情報が蔓延すれば、人々に大きな不利益をもたらすことになります。
この記事では、新型コロナウィルスで問題化した善意のインフォデミックがもたらす誤解の恐ろしさについて考察しています。SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)が当たり前になった今、正確な情報を適切に発信する情報リテラシーが問われています。
新型コロナウイルスに関係する内容の可能性がある記事です。新型コロナウイルス感染症については、必ず1次情報として厚生労働省や首相官邸 のウェブサイトなど公的機関で発表されている発生状況やQ&A、相談窓口の情報もご確認ください。
インフォデミックとは?
インフォデミック(infodemic)とは、インフォメーション(情報)とエピデミック(伝染)から生まれた造語で、根拠のない情報が大量かつ急速に拡散されることで社会に混乱が生じることです。近年では、「情報パンデミック」といった表現を使っている人たちもいます。
デロイトトーマツが公開する『1世紀で150万倍に増大した情報伝達力~情報の急速な伝染「インフォデミック」とは』によれば、インフォデミックは2003年にSARSが流行したときに、一部の専門家の間で使われ始めたとのことです。
新型コロナウィルスの事例でいえば、「トイレットペーパーが品薄になる」といった情報がSNSで広がったことで、全国で買い占め行動が発生しました。
実際は、品薄になるという事実はなかったにもかかわらず、嘘の情報を信じた人たちの購入によって現実になってしまったのです。
Twitterでは、トイレットペーパーの購入をめぐって人々が喧嘩する動画が拡散されており、「自分がよければそれでいい」という自己中心的な行動に不信感を抱く人たちがたくさんいました。これはインフォデミックを生み出した憂うべき出来事です。
善意で拡散するから止められない
インフォデミックを防止することが難しい理由として、間違った情報が善意で拡散されることが挙げられます。
新型コロナウィルスの感染拡大や東日本大震災のような緊急事態では、「自分の身は自分で守ろう」という心理が働くと同時に、家族や友人たちとの絆が意識されやすくなります。
困った時は助け合うのが人情です。「トイレットペーパーが品薄になる」や「4月1日にロックダウンが始まる」と聞いた人たちは、自分の周囲にいる人たちが困らないように真心で情報の共有を開始します。
「この情報を知らずに不幸になったら大変だ」と他者の安全を考慮できる人は周囲から信頼されやすい良い人が多いと思います。
だからこそ、その情報を聞いた人たちも「この人が言うのだから間違いない」と信じる可能性が高くなるはずです。
人間性の善悪と情報の真偽は別次元の問題ですが、現実のコミュニケーションでは混同していきます。すなわち、「何を言っているか」よりも「だれが言っているか」の方が重視されやすいのです。
SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)による情報発信が増えるにつれて、個人の「信頼」が社会的に重視されるようになってきました。
けれども、新型コロナがもたらしたインフォデミックからも明らかなように、だれかの信頼に依存した意思決定が正しいとは限りません。
結果として、善意による拡散が人々の闘争を生み出してしまったように、私たちは今一度、情報リテラシーのあり方を見直す必要があると思います。
不信が危機意識を加速させる
政府やマスメディアに対する不信が強い社会では、インフォデミックが発生しやすいと考えられます。
「本当の情報は国民には伝えられない」という漠然とした疑念は、人々の危機意識を加速させて事実無根の憶測を生み出す可能性があります。
実際、公式見解では発表されていない情報にもかかわらず、SNSや個人が発信する情報が信じれられてしまったのも、社会の根底に不信感があることが原因なのかもしれません。
公益財団法人明るい推進協会『衆議院議員総選挙年代別投票率の推移』より引用(最終確認日:2020/4/29)
日本社会は選挙率の低さからも明らかなように、国民全体として政治的無関心が横行しています。それにもかかわらず、政府に対する要求は止まりません。
もはや、政府と国民が意識的に分離している日本は、実質的に民主主義の国家ではないのかもしれません。
また、マスクや生理用品の転売で荒稼ぎするような話を聞くと、「他人なんて信用できない」と思うのも理解できなくありません。
実際に、東日本大震災でも補助金の不正利用や被災現場の盗難など人の不幸を利用して金儲けしようとする人たちがいました。
「真面目に努力してきたのに……」という健気な人の誠実さを裏切ることは、最初は小さなことに見えても、やがて地域や社会全体に大きな歪みを生み出します。
緊急事態は不信と憎悪が生まれやすいからこそ、政府やマスメディアは、国民が不安を感じる領域に関する情報を積極的に発信する必要があります。
これは、SNSのデータを解析して実現できることだと思います。民間企業では新型コロナウィルスとSNS投稿を分析したレポートを出しているところもあります。
いずれにしても、自然災害や感染症などの国家規模の問題は、政府と専門家が主体となって解決する以外にありません。
しかし、それには国民の協力が不可欠です。だからこそ、政治家とマスメディアが一般人でも分かりやすい情報を構築して、誠実な態度で不信を払拭するよう努めるべきではないでしょうか。
科学的根拠を欠いた直感が一人歩きする
理性を無視した直感は、ただの思いつきにすぎません。アイディアは検証されていくなかで独断と偏見を克服して、人々に役立つ情報になります。
新型コロナウィルスの感染拡大について、「インフルエンザと同じように、気候が暖かくなれば終息する」といった話がありますが、人々の判断に悪影響をもたらす科学的根拠が欠いた思い込みに過ぎないと思います。
実際のところ、シンガポールやフィリピンなど日本の夏と同じような気温の国でも新型コロナウィルスの感染者が出ています。厚生労働省の情報によれば、2020年4月25日現在、シンガポールの感染者は12,075人、フィリピンは7,192人です。
専門家による研究が必要なので結論を出すことはできませんが、すでに知っている範囲の情報と不確実な領域の現象を安易に結びつけることは危険な行動として戒めるべきだと思います。
正確な情報を適切に発信・受信する
インフォデミックを防ぐためには、一人ひとりが情報の発信と受信において、「これは根拠のある情報なのか?」を確認する以外にありません。
いくら信頼できる人から聞いたことだったとしても、そこに裏付けがなければ胸の中に留めておくべきでしょう。
オーストラリアで起きたトイレットペーパーの喧嘩は見るに耐えません。その人たちの罪を追求するのは簡単なことですが、そういった状況を作り出した社会全体の責任として解決しなければ、二次被害、三次被害を防止することはできません。
終息の目処が経たない新型コロナの脅威に打ち勝つためにも、インフォデミックの危機を防止する一人ひとりの行動が試されているのではないでしょうか。